人工的な合成経路探索
はじめに
事業開発部の礒崎です。弊社では酵素反応による原料から目的物までの人工的な合成ルート探索を行っています。目的物と原料の化合物構造データを入力するだけで、原料から目的物を合成する可能性のあるルート候補を出力します。本ブログでは、その具体例として高強度ポリマーの原材料となる化合物4-アミノ桂皮酸をグルコースから合成するルートを予測し、反応を担う酵素を予測した結果をご紹介します。
合成経路探索に使用した材料
Tateyama et al., 2016において、高強度のポリマーを生産するための原材料として4-アミノ桂皮酸を使用しています。この4-アミノ桂皮酸を合成するために使用された経路が図1です。グルコースを原料としてStreptomyces venezuelae 由来のAminodeoxychorismate synthase (PapA)とS. pristinaespiralis由来の Aminodeoxychorismate synthase (PapBC)を導入した大腸菌により4-アミノフェニルアラニンを生産させます。さらに、この4-アミノフェニルアラニンを原料としてRhodotorula glutinisのPhenylalanine ammonia-lyase (RgPAL)を導入した大腸菌に加えて、4-アミノ桂皮酸を生産させます。
結果
1. 生合成経路探索
原料をグルコース、生成物を4-アミノ桂皮酸として入力することで図1のような人工合成経路が出力されました。グルコースからコリスミ酸の既知合成経路と同一の経路が出力され、4−アミノフェニルアラニンを介して4-アミノ桂皮酸を合成する経路が出力されました。
2. 類似反応探索
結果1で見出した人工的な合成経路のうち、4-アミノフェニルアラニン→4-アミノ桂皮酸の類似反応を探索しました。
類似反応探索により、アミノ基を脱離し、二重結合を生成する反応が抽出されました。標的反応との反応類似度が高い類似反応の一部とその順位を図2に示しました。標的反応と完全に一致する反応を含む類似反応が抽出されました。
3. 類似反応該当酵素探索
結果2で標的反応の類似反応を抽出しました。この類似反応を担う酵素配列をtaxonごとに抽出しました。絞り込んだ配列と論文中で使用された酵素を比較しました。Rhodotorula属、Eukaryotaドメイン、全taxonの3段階で配列を抽出しました(表1)。抽出した配列には、論文で使用された配列と90%以上の配列相同性を示すものが含まれていました。
終わりに
本ブログでは人工的な合成経路の探索を実演しました。材料として高強度ポリマーの原材料となる化合物4-アミノ桂皮酸をグルコース から合成する人工的な経路を探索しました。この経路のうち、4-アミノフェニルアラニンから4-アミノ桂皮酸を合成する酵素を類似反応酵素探索技術を用いて見つけることができるか試しました。上記の反応に対して、任意のtaxonごとに配列を抽出し、それぞれの配列数を示しました。実際に論文で使っていた酵素に非常に近い配列を含む複数の配列を抽出することができました。
謝辞
今回の合成経路探索には以下の論文のデータを利用させていただきました。
Tateyama et al., (2016) Ultrastrong, Transparent Polytruxillamides Derived from Microbial Photodimers. Maclomolecules.